傷病手当金と障害年金の両制度は、それぞれ異なる給付内容を持ちつつ、一定の条件下では重複して受給できない仕組みとなっています。この記事では、健保組合が傷病手当金申請時に提出を求める誓約書の意味や背景、そして年金事務所との情報連携の現状について詳しく解説します。
傷病手当金と障害年金の基本的な違い
傷病手当金は、健康保険制度から支給されるもので、業務外のケガや病気によって働けなくなった際に生活を支援する目的で設けられています。一方、障害年金は公的年金制度(厚生年金・国民年金)に基づき、障害の程度に応じて支給される長期的支援制度です。
どちらも「働けない状態に対する保障」ですが、傷病手当は一時的支援、障害年金は恒常的支援という点で性格が異なります。
なぜ誓約書が必要なのか?
傷病手当金を申請する際、後に障害厚生年金を受給した場合には届け出る旨の誓約書に署名を求められることがあります。これは、両制度での二重給付を防ぐためです。
実際に障害年金を受給するようになった場合、その期間中に支給されていた傷病手当金と重複していた分は調整(返還)対象になります。しかし、障害年金の受給情報は個人のプライバシーに関わるため、健康保険側から自由に照会できるわけではありません。
健保組合は障害年金受給を把握できるのか?
基本的に、健康保険組合と年金機構の間には、直接的なリアルタイム連携システムは存在しません。そのため、傷病手当を受け取った後に障害年金を申請・受給しても、本人からの報告がなければ健保組合は把握できないのが現実です。
このため、健保側は給付時に「誓約書」という形式で将来的な報告義務を課し、必要があれば過払い分の調整ができるように備えているのです。
情報連携が難しい理由
年金情報は個人の機微情報に該当し、情報開示には法律的根拠が必要です。健保組合が加入者の障害年金受給状況を自由に確認するには、制度的な壁があります。
たとえマイナンバーなどで紐付けられていても、行政機関間でのデータ共有には厳格な制限が設けられているため、健保側としては「自己申告を前提とする誓約書」という方法を取らざるを得ません。
具体例:誓約書を巡る対応の実際
たとえば、ある加入者が傷病手当金を1年半受給し、その後、障害厚生年金2級を認定されたとします。この場合、年金支給開始日が傷病手当支給期間と重なっていれば、その重複分は返還が求められます。
この返還手続きを円滑に進めるためにも、健保側は誓約書によって「後に障害年金を受給した場合の報告義務」を明示しておく必要があるのです。
誓約書がしょーもない?合理性を考える
確かに形式的で煩雑に感じられる誓約書ですが、それは健保側が情報を一方的に取得できない制度的制約のもと、事後対応のリスクを回避するための現実的措置です。
実際には、誓約書があることで返還請求の法的根拠が明確になり、加入者と健保双方の立場を守る役割も担っています。
まとめ:情報連携の壁と個人の責任
傷病手当金と障害年金は、併用できない期間があるため、制度上の調整が不可欠です。現時点では、健康保険組合と年金機構が自由に情報共有できる環境にはなく、誓約書による対応は制度的な妥協点と言えるでしょう。
加入者としても、自分が障害年金を受給するようになった場合には、速やかに健保組合へ報告することが、制度の正しい運用とトラブル防止に繋がります。
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