高齢者の雇用が進む中で、「70歳以上の社員が二以上の事業所で働く」ケースが珍しくなくなってきました。実務担当者としては、年金や健康保険など社会保険の手続きについて正確な知識が求められます。本記事では、選択事業所・非選択事業所における対応や、提出すべき書類の流れを具体的に解説します。
70歳以上の被用者の社会保険の基本
70歳以上になると厚生年金の被保険者資格は喪失しますが、報酬に応じた「70歳以上被用者」としての届け出が必要です。健康保険については資格喪失せず、継続加入が原則となります。
また、複数の事業所で勤務する場合は、どの事業所を「選択事業所」とするかを社員自身が決定し、該当の年金事務所に届け出る必要があります。
書類提出の流れと各事業所の役割
以下は70歳以上の社員が2カ所勤務する場合の一般的な書類提出の流れです。
- 1. 選択事業所(主たる勤務先)
→ 「70歳以上被用者該当届」や「報酬月額算定基礎届(70歳以上用)」を提出。
→ なお、「二以上事業所勤務届」は社員本人が提出します。 - 2. 非選択事業所
→ 社会保険への加入が必要(給与の支払いがある場合)。
→ 自社で健康保険・厚生年金の手続き(加入・報酬届)を実施。ただし、厚生年金保険料の納付は選択事業所が一括。 - 3. 社員本人
→ 「厚生年金保険 70歳以上被用者所属選択・二以上事業所勤務届(様式第3号)」を選択事業所の管轄年金事務所に提出。
この手続きは「基礎年金番号」「事業所整理記号」「報酬額」などの情報が必要で、選択・非選択事業所が連携して進める必要があります。
選択事業所とするメリット・判断基準
選択事業所をどちらにするかは、被用者本人の意思で決めることができます。判断基準としては、次のような点が考慮されます。
- 報酬額が高い方の事業所
- 勤務時間が長い方の事業所
- 将来的な退職時期の予定
いずれの事業所を選んでも保険料総額は変わりませんが、報酬月額や手続きの手間を考えると、主たる勤務先を選ぶのが実務上スムーズです。
実際の提出書類と記載ポイント
社員本人が提出する書類「70歳以上被用者所属選択・二以上事業所勤務届」は、日本年金機構のサイトよりダウンロード可能です。
届出には以下の情報が必要です。
- 基礎年金番号
- 選択事業所・非選択事業所の名称・所在地・整理記号
- 各事業所の報酬月額
手書きミスや記載漏れによる差戻しが多いため、入力・押印欄は丁寧に確認しましょう。
トラブルを避けるための注意点
特に多いトラブルは「どちらの事業所で保険料が天引きされているのかわからない」というケースです。選択事業所で一括して納付されることになるため、給与計算や年末調整で混乱しないよう社内連携が不可欠です。
また、70歳以上の「高年齢被保険者」は雇用保険には加入できないため、その点と混同しないようにしましょう。
まとめ:スムーズな手続きのために
70歳以上の二カ所勤務は増加傾向にあり、社会保険手続きも柔軟に対応する必要があります。まずは社員本人の意思を尊重しながら、選択事業所・非選択事業所ともに正確に情報を把握して協力しましょう。
実務担当者としては、「書類の記載・提出フロー」を理解し、社員が混乱しないように丁寧なフォローが求められます。
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