「父が地方都市で中規模の医院を経営している開業医なのに、年収は1000万円ほどだと聞いて驚いた」──そう感じるのはごく自然です。世間では「開業医=高年収」というイメージが根強くありますが、実際にはそれほど単純な話ではありません。この記事では、開業医が“年収1000万円”と語る理由や、その背後にある経営・税務のリアルをわかりやすく解説します。
「開業医=高収入」は半分正解、半分誤解
一般的な医師の平均年収は勤務医で1,200万円前後、開業医で2,500万円前後とされることが多いですが、これはあくまで平均であり、個々の事情で大きく異なります。
特に地方都市で中規模の医院を経営している場合、診療科目や患者数、借入金の有無、家族の給与支給の有無などによって実質的な収入は大きく変わります。
開業医の「年収」は“役員報酬”という制度上の金額
多くの開業医は法人化しており、自身を「医療法人の役員(理事長)」とする形で、報酬(役員報酬)を毎月一定額に設定しています。つまり、開業医=医院経営者として「法人収入」と「個人年収」が明確に分かれているのです。
年収1000万円というのは、あくまでその人が法人から受け取る給与額であり、実際には法人に数千万円の利益が残っていることもあります。ただ、それをすべて自分の年収として受け取ると税率が非常に高くなるため、税務対策として年収を低く抑えている場合があります。
「経営は悪くないのに年収は控えめ」な理由
たとえば、年間売上が1.5億円ある医院でも、人件費、家賃、医療機器のリース料、薬剤・衛生材料費、設備更新費、税金などを差し引くと、純利益は3,000万〜5,000万円程度に落ち着くことがあります。
その中から院長である本人は「必要最低限の給与」だけを取り、残りは法人内部に留保して設備投資や運転資金に回す形を取るケースも一般的です。このような人は、お金に無頓着というより、経営者として長期的な視野で経営を安定させたいと考えている可能性が高いです。
家庭における「見えない資産」が多いことも
年収が1000万円でも、以下のような経済的余裕があるケースも多く、実質的な生活水準はかなり高いことが一般的です。
- 住居が医院の建物内または法人所有=家賃ゼロ
- 社用車の利用=自家用車の維持費不要
- 経費として一部の支出が法人から出る
- 医療法人に現金や資産が積み上がっている
つまり、個人名義での年収が少なくても、全体としては「資産家」のような経済的安定を得ていることが珍しくありません。
実例:年収は控えめでも、資産形成は堅実なケース
ある地方都市の整形外科医院では、院長が年収960万円に設定しているにもかかわらず、法人の内部留保は年間3000万円近く。毎年一部を不動産投資や企業型DC(確定拠出年金)に回しており、10年で資産1億円を超えたというケースもあります。
本人いわく、「生活に必要な分だけ受け取って、残りは将来に回す。税金も節約できて一石二鳥」とのこと。こうした方針は、堅実な医院経営者の間では珍しくありません。
まとめ:「年収1000万=少ない」とは限らない現実
中規模医院の院長が「1000万円しかもらっていない」と言うと少なく感じるかもしれませんが、その裏には税制・経営・将来設計まで含めた合理的な判断があることが多いです。
見かけの年収だけで経済状態を判断するのではなく、法人経営と資産形成の視点から全体像を見ることが、真の理解につながります。
コメント