なぜアメリカには国民皆保険制度がないのか?先進国で突出する医療費の理由を解説

国民健康保険

先進国のほとんどが導入している「国民皆保険制度」。日本やイギリス、フランス、カナダなどがその代表例ですが、アメリカには存在しません。しかも、アメリカの医療費はOECD諸国の平均の約4倍に達するとも言われています。なぜこのような構造になっているのか、その背景を多角的に解説します。

アメリカに国民皆保険がない理由

アメリカに国民皆保険制度がない主な理由は、歴史的背景・政治的対立・市場経済の思想が深く関わっています。

20世紀前半、ヨーロッパ諸国では戦後復興と共に政府が医療保険制度を整備しましたが、アメリカでは政府の介入を嫌う文化や「小さな政府」を志向する保守的な思想が根強く、民間主導の保険制度が定着しました。

さらに「自由競争で質が高まる」という市場原理の信奉も強く、医療も商品として扱われる傾向があります。

民間保険が中心のアメリカ医療制度

アメリカでは民間の医療保険会社が多数存在し、企業が従業員に医療保険を提供する形が一般的です。しかし、フリーランスや低所得層には保険の加入が難しく、医療費が自己負担となる“無保険者”が常に一定数存在しています。

政府による公的保険も「メディケア(高齢者向け)」「メディケイド(低所得者向け)」という形で一部に限られ、全国民を対象とした制度にはなっていません。

医療費が高騰する4つの主な理由

アメリカの医療費が先進国の中で飛び抜けて高い背景には、以下のような構造があります。

  • 自由価格制度:薬価や診療報酬に公定価格がなく、医療機関や製薬会社が自由に価格を設定できる
  • 保険会社の中間マージン:民間保険会社が存在することで事務手数料や利益が上乗せされる
  • 医療訴訟の多さ:訴訟リスクを避けるため過剰な検査や処置が行われやすい
  • 専門医や医療機器の集中:高性能な医療機器や専門医による治療に偏りがあり、費用が高額化しやすい

これらの要因が複雑に絡み合い、アメリカでは「同じ治療でも病院によって100倍の価格差がある」ことすら珍しくありません。

オバマケアとその限界

2010年に導入された「オバマケア(正式名称:医療保険制度改革法)」は、無保険者を減らすために設計された政策です。民間保険の加入を義務化し、保険料の補助金制度も導入されました。

しかし、保険料の高騰や保険会社の撤退などにより、十分に機能しているとは言えず、「中間所得層には逆に負担増」という声も多く上がっています。また、政権交代による制度の改廃が繰り返され、安定した制度とは言い難い状況です。

他の先進国との比較

日本では全国民が公的医療保険に加入しており、医療費の自己負担は原則3割です。イギリスは税金による「国営医療サービス(NHS)」を展開し、カナダやフランスも公的制度が中心です。

これらの国では、すべての国民が必要な医療にアクセスできる体制が整っており、所得による医療格差は比較的少ないとされます。

まとめ

アメリカに国民皆保険制度がない理由は、歴史的な背景と市場原理を重視する文化にあります。民間保険中心の医療制度により、多くの人が医療アクセスに格差を感じ、医療費は世界最高水準にまで膨れ上がっています。今後、アメリカが国民皆保険制度を導入するかどうかは、政治・経済・文化の三要素が交差する複雑な問題として、引き続き注目されています。

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