近年、年金制度の持続可能性に対する不安が高まっています。テレビやニュースでは「年金が破綻する」「年金だけでは生活できない」といった言葉が並び、将来に対する不安を抱く人も少なくありません。本記事では、人口減少・共働き増加といった現代社会の動向が年金制度にどう影響しているのかを、具体例を交えて解説します。
年金制度の基本構造と収支の仕組み
日本の公的年金制度は「賦課方式」と呼ばれる仕組みで成り立っています。これは、現役世代が支払う保険料で、現在の高齢者の年金給付をまかなう方式です。つまり、若者が少なく高齢者が多い社会になると、収入より支出が上回りやすくなります。
たとえば、1970年代には「現役世代:高齢者」が10:1という割合でしたが、現在では2:1を切る状況に。これは制度のバランスに大きな負担を与えています。
人口減少が年金財政に与える深刻な影響
最大の課題は、やはり「人口減少」です。日本の総人口は2008年をピークに減少に転じ、少子高齢化が急速に進行しています。特に20〜40代の労働人口が減少しており、保険料の総収入も減少傾向にあります。
実例として、厚生労働省のデータによれば、国民年金の納付率は80年代には90%を超えていましたが、2022年度時点での実納付率は70%前後。制度維持のためには厳しい状況が続いていることがわかります。
共働き増加で保険料収入は増えているのか?
確かに共働き世帯が増加し、厚生年金に加入する女性が増えたことで保険料収入は部分的に増加しています。総務省の「労働力調査」によれば、2020年代以降は専業主婦世帯より共働き世帯の方が圧倒的多数を占めています。
しかし、これによる増収は限られており、人口減少による全体の労働者数の減少スピードには追いついていないのが現実です。特に非正規雇用やパートタイム労働者の場合、加入条件を満たさないケースもあり、思うように収入増にはつながっていません。
公的年金運用の仕組みとその不安
年金積立金は「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」によって運用され、国内外の株式や債券などに投資されています。2023年度は収益が出たものの、相場の変動によりマイナスになる年もあります。
一例として、リーマンショックが起こった2008年度には、GPIFの運用損益が約9.3兆円の赤字となりました。運用リスクと制度リスクの双方が存在するため、「不安定だ」と感じる人も多くなっています。
制度維持のための対策と今後の方向性
政府は年金制度を維持するために、
- 支給開始年齢の引き上げ(65歳→70歳選択制)
- 受給額の抑制(マクロ経済スライド)
- 被保険者拡大(パートタイム・短時間労働者の適用拡大)
といった制度改革を段階的に進めています。
また、個人単位でも、iDeCo(個人型確定拠出年金)やつみたてNISAなどを活用した「自助努力による老後資金の確保」が重要視されるようになってきました。
まとめ:共働き増加だけではカバーしきれない構造的課題
女性の厚生年金加入増加による保険料収入の増加は、年金制度にとってはプラス材料ですが、それだけでは人口減少による根本的な収支バランスの崩壊を食い止めることはできません。少子化・高齢化という構造的課題に向き合いながら、個人・企業・国家が連携して備えていくことが求められています。
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