個人事業主やフリーランスとして活動する中で、確定申告の際に「経費をどこまで盛れるか」「どの程度までなら問題ないのか」といった疑問を持つ方は少なくありません。税務調査の確率は低く、違反しても逮捕されるわけではないという考え方もありますが、それが本当に合理的かどうかは慎重な検討が必要です。本記事では、リスクとリターンの視点から確定申告における経費計上の実態と適正な判断軸をわかりやすく解説します。
経費を“モリモリ”にすると本当に得なのか?
確かに、税務調査の対象になる確率は個人事業主で年間1%前後と言われています。そのため、「見つからなければOK」という意見もありますが、それはあくまで確率論にすぎず、発覚した場合の代償は意外と大きいことを見落としがちです。
たとえば、経費に過大な按分をした車両費や、実態のない専従者給与を計上していた場合、税務署に否認されればその分は「経費として認められず」、追徴課税+過少申告加算税+延滞税が課されます。
期待値で考える節税戦略の落とし穴
「見つからなければ得」「調査が入っても罰金を払えばいい」という考え方は、短期的には有効に見えるかもしれません。しかし、これにはいくつかの大きな問題があります。
まず、税務調査は過去3~5年分にさかのぼって調査が行われるため、過去の“モリモリ”経費が一括で問題視され、数百万円単位の追徴課税になることもあります。また、税務署からのマークがつけば、将来的にも頻繁に調査の対象になる可能性が高まります。
実際にあった税務調査事例
たとえば、ある個人事業主が車をほぼプライベート利用にもかかわらず90%を事業用として申告し、専従者給与を相場より明らかに高く設定していた結果、3年分の申告が否認され、結果として約250万円の追徴課税が発生したというケースがあります。
一方、正しく家事按分を50%に設定し、専従者給与も就労時間に応じた適正額にしていた別のケースでは、調査が入っても問題なしと判断され、信頼を得てその後の調査も免れています。
税理士が“安全側”を推す理由
税理士が「安全側」での申告を推奨するのは、法律や税務の専門家としての責任があるからです。適正な処理を怠っている顧問先に対して、税務署が指摘を入れた場合、税理士の責任も問われることがあります。
また、節税と脱税は紙一重です。税理士が“お利口さん”だから安全側に振るわけではなく、事業者が長く安定的に経営を続けるための合理的な判断をしているに過ぎません。
節税と脱税の境界線を正しく理解する
節税=合法的に税負担を軽減する行為、脱税=違法に税金を免れる行為です。事業用の経費である根拠があり、証拠書類を残し、説明ができるのであれば問題ありませんが、グレーゾーンを攻めすぎると「脱税」と見なされるリスクが高まります。
特に家事按分や専従者給与は税務署が重点的にチェックする項目でもあるため、根拠のある数字と説明可能な仕組み作りが求められます。
まとめ:長期的な信頼と事業安定のために正しい申告を
確定申告で経費を“モリモリ”にした申告は、短期的には得に見えても、リスクや代償が非常に大きく、長期的に見ると事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。節税は「合法的に」「証拠を残し」「説明可能な形で」行うことが重要です。
税務調査が入らないことに賭けるのではなく、調査が入っても問題ないように日々の記録を整える。これこそが、結果として最もコスパの良い節税戦略であり、信頼されるビジネスパーソンの姿勢といえるでしょう。
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