相続した不動産を売却し、兄弟で分配するケースは珍しくありません。しかし、このときに気をつけたいのが、贈与税の対象になるかどうかという点です。本記事では、代表者の口座に振り込まれた売却代金を他の相続人に送金した場合の税務上の取扱いについて解説します。
相続財産の売却と分配の基本的な考え方
相続人が複数いる場合、不動産を共同相続することがあります。その後、その不動産を売却して得た代金を各相続人に分配する場合、相続時の取り決めに基づいていれば贈与とはみなされません。
たとえば、三人兄弟が1/3ずつ土地を相続し、それを売却して3,000万円の代金を受け取った場合、1人あたり1,000万円を受け取るのが合理的です。このように持ち分に応じて分配される場合には、原則として贈与税の対象とはなりません。
売却代金が一旦1人の口座に振り込まれた場合のリスク
問題となるのは、売却代金が一旦1人の名義の口座に入金されたときです。この場合、形式上はその人が全額を受け取ったと見なされる可能性があります。税務署がその資金移動を「贈与」と誤認するリスクがあるため、注意が必要です。
しかし、実態として共同相続した不動産の売却代金を相続割合に応じて分配したと説明できるように、相続登記や売買契約書、共有持分割合の記録などをきちんと保存しておくことが重要です。
贈与とみなされないために必要な証拠とは
次のような書類があると、贈与ではなく相続財産の分配であることの証明になります。
- 相続登記された共有持分の登記事項証明書
- 売買契約書や売却時の領収書
- 分配内容の合意書(分配割合や理由を記載)
- 通帳の履歴(振込日・金額・名義人が確認できるもの)
これらを備えておけば、税務署から問い合わせがあった場合にも冷静に対応できます。
確定申告での取り扱いと注意点
不動産の売却に伴う譲渡所得は、それぞれの相続人が持ち分に応じて確定申告を行います。たとえば、兄弟それぞれが1/3ずつ権利を持っていれば、それぞれが1,000万円の売却収入を申告することになります。
そのため、たとえ一時的に兄の口座に3,000万円が入金されたとしても、その後きちんと1,000万円ずつ送金し、それぞれが確定申告をしていれば問題視されることはほとんどありません。
トラブル回避のための実務ポイント
実務上は、売却代金の振込先を代表相続人にしておくケースが多いですが、その後の資金移動を正確に記録することが大切です。可能であれば、振込明細に「○○土地売却分配金」などの記載を入れると、より明確になります。
また、分配時に簡単な「分配書」や「同意書」を交わすことも、後の税務トラブルを未然に防ぐ有効な手段です。
まとめ:正しく処理すれば贈与税の心配は不要
相続財産の売却代金を代表者の口座に一旦入金し、その後に分配するケースでも、適切な証拠と処理をしていれば贈与税が発生することはありません。ただし、税務署が「贈与」と誤認しないよう、書類や履歴をしっかり保管することが肝心です。
不安が残る場合には、税理士に相談することで適切なアドバイスを受けることができます。大切な相続財産をトラブルなく分配するために、ぜひ慎重な対応を心がけましょう。
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