法人でパートタイムの従業員が退職する際、「労災保険に関して何か手続きが必要なのか?」と疑問に感じる事業者の方も多いのではないでしょうか。特に健康保険・厚生年金・雇用保険に未加入の従業員であっても、労災保険の適用対象となるケースは多くあります。本記事では、退職時における労災保険の取り扱いと必要な手続きについてわかりやすく解説します。
労災保険はすべての労働者に適用される
労災保険(正式名称:労働者災害補償保険)は、原則として労働者を1人でも雇っていれば自動的に適用される強制保険です。正社員・パート・アルバイトといった雇用形態を問わず、労働の対価として賃金を受け取っていれば全員が対象になります。
そのため、たとえ健康保険や雇用保険に加入していない短時間パートの従業員であっても、在職中に労災事故が発生すれば補償対象となります。
退職に際して労災保険に関する喪失届は必要か
結論として、労災保険には「退職時の喪失届」などの提出は不要です。健康保険や雇用保険のように個人単位での資格取得・喪失管理は行っていないため、従業員が退職しても、会社が労災保険について何か届け出をする必要はありません。
労災保険はあくまで「事業所単位」で管理されており、年度ごとの「労働保険年度更新」によって、従業員数や賃金総額などを集計・申告する仕組みになっています。
退職後に労災事故が判明した場合の対応
万が一、従業員が退職後に在職中の労災(業務災害・通勤災害)で後遺症が出たなどと申し出た場合でも、その事故が在職中に発生したことが明らかであれば労災保険の対象になります。
この場合、退職後であっても元雇用主が労基署に労災申請書類(様式5号など)への証明を行う必要があります。特に「通勤災害」や「時間外勤務中の負傷」などでは、雇用主の証明が必要となるケースが多いため、退職後も誠実な対応が求められます。
労災保険に関する事業主側の定期的な義務
退職時の個別手続きは不要とはいえ、事業主としては以下のような定期的な労災関連業務を行う必要があります。
- 毎年6月1日〜7月10日の労働保険の年度更新
- 労災発生時の所轄労基署への届け出・報告
- 業務災害発生時の様式第5号または6号の作成
退職者がいる月の賃金も「その年度の賃金総額」に含まれるため、正確に把握しておく必要があります。
実務上の注意点:退職処理と給与計算の連動
退職者の最終月の賃金も、労災保険料の基礎となる「賃金総額」に含める必要があるため、年度更新の際には抜け漏れがないように給与データを整理しておきましょう。
また、万が一退職前後に労災請求があった際のために、雇用契約書・出勤簿・賃金台帳などの書類は最低でも3年間保管しておくことが望ましいとされています。
まとめ:退職時の労災保険手続きは不要だが記録は大切に
パート従業員が退職する際、労災保険に関しては喪失届などの特別な手続きは不要です。ただし、退職後に過去の労災が発覚するケースもあるため、労災事故の有無や雇用期間に関する記録はきちんと保管しておくことが重要です。
事業所としては、年度更新や万一の労災対応に備えて、制度理解とデータ管理をしっかり行いましょう。
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