年金生活を送る高齢者の多くが直面するのが、医療や介護にかかる自己負担の重さです。年金の目的は生活の安定ですが、現実には高額な医療費によって手元に残るお金が少なくなるという矛盾が生じています。この記事では、その背景と制度の改善に向けた動きを詳しく解説します。
高齢者の医療・介護負担はなぜ重いのか
75歳以上の高齢者の医療費は、現役世代と比較して約4~5倍とされています。これにより、医療機関を頻繁に利用する高齢者ほど自己負担も大きくなりやすい構造があります。
例えば、介護保険料や後期高齢者医療保険料は年金から天引きされ、年金額が少ない人にとっては大きな負担となります。さらに、年金額にかかわらず一定の負担が求められる点も問題視されています。
高額療養費制度などの負担軽減策
こうした状況に対して、国は一定の負担軽減策を講じています。代表的なのが「高額療養費制度」で、ひと月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超過分は後日払い戻されます。
たとえば、年金収入400万円以下の高齢者の場合、1ヶ月の上限額は「約1万8000円~5万7000円」程度(所得により異なる)に設定されています。ただし、通院・薬代・介護サービスなどは別計算となるため、複数回の支払いがかさむと大きな負担感があります。
制度改善に向けた法整備の現状
政府は高齢者負担の抑制を目的に、2022年度から後期高齢者の医療費自己負担割合を「1割→2割」に引き上げましたが、同時に高額療養費の上限を設定することで歯止めを設けています。
また、社会保障審議会などでは、年金受給者の生活を守りつつ、持続可能な制度設計に向けた議論が続けられています。高額薬剤の費用適正化や、保険者の審査強化なども進められています。
薬剤費や医療機器の価格はどう決まるのか
医薬品や医療機器の価格は、厚生労働省が薬価制度や診療報酬制度を通じて管理しています。新薬は「原価+利益+開発費」の積み上げ方式で価格設定され、2年ごとに薬価改定が行われます。
たとえば、がん治療薬「オプジーボ」は、発売当初100mgで73万円以上という価格でしたが、その後の薬価改定で段階的に引き下げられました。このように、価格が高すぎると判断されれば、引き下げる仕組みはあります。
不当な利益を防ぐ仕組みはあるのか?
製薬会社や医療機器メーカーが過剰に利益を得ないように、国は「費用対効果評価制度」を導入しています。これは、薬剤の効果に対して価格が適正かをチェックする仕組みです。
さらに、医療機関が保険請求する診療報酬についても、審査支払機関がチェックを行い、不適切な請求は減額・返還が求められます。こうした制度により、業界全体の適正化が図られています。
利用者ができる対策と賢い制度の使い方
個人としては、制度を理解し正しく使うことが最善の防衛策です。以下のような対策が有効です。
- 高額療養費制度の事前申請(限度額適用認定証)
- 介護保険サービスの地域包括支援センターへの相談
- 年1回の医療費控除の申告(確定申告で税負担軽減)
また、市区町村の窓口で医療・介護に関する支援制度を尋ねることも大切です。知らなければ受けられない支援も多いため、積極的に情報収集を行いましょう。
まとめ:制度の限界と希望ある改革
年金生活者にとって医療費の負担は深刻な問題ですが、制度を活用することで軽減できる場面も少なくありません。国も費用の適正化や制度改革に取り組んでおり、今後さらなる改善が期待されます。
医療や介護に対する不信感を少しでも和らげるには、情報と制度に対する正しい理解が鍵となります。誰もが安心して医療を受けられる社会のために、声を上げ続けることも重要な一歩です。
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