近年、米農家による直接販売(直販)が増え、消費者との距離が近くなった一方で、親戚や知人への価格設定や商社・JAとの契約販売との違いに悩む農家も少なくありません。本記事では、稲作農家の販売価格の実情と、親戚価格の考え方、商社・JA販売との価格差などを丁寧に解説します。
直販と業者販売の価格の違い
一般的に、米をJAや商社に出荷する場合、60kgあたりの買取価格は地域や銘柄、年によって異なりますが、2024年時点では概ね8,000円〜11,000円台です。1袋30kg換算にすると、約4,000〜5,500円です。
一方、直販では30kgで8,000円〜12,000円ほどで取引されることもあり、販売ルートによっては2倍以上の収益差が生まれることもあります。販路開拓や送料、労力はかかるものの、収益性の高さから個人直販に切り替える農家も増えています。
親戚・知人への「身内価格」は必要か?
「親戚には安く売るもの」という風潮は根強くありますが、それが経営の負担になっている農家も少なくありません。とくに、田植えや収穫を手伝うわけでもなく、通常価格以上のクレームや手間がかかるケースも。
実際には、「通常価格で購入してくれる親戚の方がありがたい」という声も多く、農業の手間や原価を理解してくれる関係性こそが本当の支援であるという考え方も広がりつつあります。
「親戚価格」の実例とその背景
ある新潟の米農家では、通常価格が30kgあたり9,000円のところ、親戚価格を8,000円に設定しています。しかし、これには「配達なし」「振込支払い」「数量限定」という条件を付けています。これにより、親戚価格でも負担が偏らないように調整しているとのこと。
また別の秋田の農家では、「親戚にも市場価格で販売し、代わりに年1回、収穫体験などのイベントに招待する」という方法をとっています。金額ではなく体験や交流で感謝を伝える形です。
農業経営における価格設定の重要性
米農家は「収益性の低さ」が長年の課題であり、価格設定は経営を左右します。親戚や知人に安く売ることで一時的な満足を得ても、長期的には農業を続けられなくなるリスクも。
そのため、多くの農家が「手間と対価のバランス」「感謝と継続性」の視点から価格戦略を見直しています。農家自身の生活も守ることが、持続可能な農業経営に直結します。
消費者側への説明も大切
「なぜ安くできないのか」「この価格にはどれだけの労力が含まれているのか」など、消費者側に丁寧に伝えることも価格戦略の一部です。SNSやチラシなどを活用して農作業の様子やコストを開示することで、正当な価格への理解が深まります。
たとえば、Instagramで「1袋のお米ができるまでの工程」を投稿する農家も増えており、顧客との信頼関係構築にもつながっています。
まとめ:価格は「感謝の気持ち」ではなく「価値の反映」
親戚だから安く、という考え方がすべて悪いわけではありませんが、それが経営を圧迫しているなら見直す必要があります。
適正価格=農家の努力と品質に対する正当な対価です。親しき仲にも礼儀あり、農家の持続可能性を守るためにも、価格は公平であるべきという視点が今後さらに求められるでしょう。
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