年金受給や役員報酬の調整、そして自社への不動産賃貸──これらは中小企業の役員にとって重要なテーマです。特に、報酬を下げて自身所有の事務所を会社に賃貸するケースでは、節税か脱税かという判断が曖昧になりがちです。この記事では、税務リスクと合法的な取り扱いについて詳しく解説します。
役員報酬の調整と税務リスクの関係
役員報酬を下げること自体は違法ではありません。ただし、報酬を下げた代わりに他の手段で利益を得る場合、それが税務上の問題とみなされるかが焦点になります。特に、会社に対して自身の不動産を貸し、その家賃を得る場合、税務署はその妥当性をチェックします。
報酬を減らして家賃収入に切り替えることが節税目的と明白な場合、税務調査で否認されるリスクがあります。これは「実質課税の原則(所得税法第12条)」によって、形式よりも実態が重視されるためです。
自社への不動産賃貸は可能だが「適正家賃」が鍵
役員が所有する不動産を会社に賃貸すること自体は認められています。ただし、その家賃が周辺相場と比べて著しく高すぎたり安すぎたりすると、不相当に高額または低額な家賃として、損金や経費として認められない可能性があります。
たとえば、近隣の同規模事務所の賃料が月額10万円程度にもかかわらず、役員の物件に20万円支払っていた場合、差額が「役員賞与」または「寄附金」と見なされる恐れがあります。
合法的な取引にするためのチェックポイント
- 賃貸契約書を締結する(契約内容を明確化)
- 賃料の金額が相場に即している(不動産会社など第三者評価を取得)
- 毎月の振込履歴や税務処理を整備(会社は損金計上、個人は不動産所得で申告)
これらの要件を満たすことで、「形式的にも実態的にも正当な取引」として認められる可能性が高まります。
年金・報酬・家賃収入の関係と税務対策
年金受給者が高額な役員報酬を受け取っていると、年金が全額または一部停止されることがあります。そのため、役員報酬を調整し、他の所得(不動産所得等)で補う方法は一部の経営者が検討する節税策です。
しかし、家賃収入も不動産所得として所得税や住民税の対象になりますので、単なる税の繰り延べや分散に過ぎない場合もあります。節税のつもりが、結果的に税負担を増やすこともあるため注意が必要です。
実際に否認された事例とその背景
過去の税務調査では、以下のようなケースが否認されています。
- 役員報酬を極端に引き下げ、その分高額な家賃を会社が支払った→一部が「役員賞与」として否認
- 契約書の整備が不十分で、契約期間や賃料が曖昧→実態のない支出と判断され損金不算入
いずれのケースも「経済合理性がない」点が問題視されています。
まとめ:透明性と合理性が節税のポイント
役員報酬を調整し、自社に不動産を賃貸して収入を得るという手法は、合法的な節税策として一定の合理性があります。しかし、契約の整備・金額の妥当性・申告の適正性が欠けていると、税務署から「形式的な脱税」と見なされかねません。
不安がある場合は、国税庁や税理士に相談のうえ、事前にリスクを最小限に抑えた対応を取りましょう。
コメント