会社役員のうち、業務執行を実際に行っている方のなかには「使用人兼務役員」として給与も役員報酬も受け取っているケースがあります。こうした場合、毎年行われる社会保険の定時決定(標準報酬月額の決定)において、どのように報酬額を計算すべきか疑問を抱く方も少なくありません。この記事では、使用人兼務役員に該当する場合の報酬の取り扱いや実務の注意点を、わかりやすく解説します。
使用人兼務役員とは何か?その定義と要件
「使用人兼務役員」とは、取締役などの役員でありながら、部長や工場長などの職務を兼ねて、従業員と同様の立場で働いている役員のことを指します。形式的な役職名だけでなく、業務内容の実態が判断基準とされます。
たとえば、「営業部長として営業の第一線で活動し、一般社員と同様の勤務実績がある」などの要素が確認されることが重要です。実態が伴わないと、形式的に「兼務」としていても税務や社会保険上の取扱いが否認されるおそれがあります。
定時決定における報酬の取り扱い:合算が原則
健康保険・厚生年金の定時決定においては、使用人兼務役員の給与と役員報酬は原則として合算して報酬月額を算出します。これは、兼務している業務が実態を持っており、使用人としての給与が明確に区分されている場合に限ります。
たとえば、ある月に「役員報酬20万円」「部長としての給与15万円」が支給されている場合、その月の報酬月額は35万円として標準報酬月額の計算対象になります。
給与と役員報酬の区別はどうつける?
給与と役員報酬を正しく区分するためには、次のような対応が必要です。
- 就業規則や雇用契約書に、兼務職の給与体系が明記されている
- 給与計算上、役員報酬と給与が別々に支払われている
- 出勤簿や業務日報などで、実際の労働実態が確認できる
これらが整っていないと、「すべて役員報酬」として処理される可能性があり、社会保険料が過少あるいは過大に計算されるリスクがあります。
社会保険料の計算に影響する要素
使用人兼務役員の場合、社会保険料の算出において次のような点が影響します。
- 定時決定:4月~6月の報酬合計(給与+役員報酬)をベースに標準報酬月額が決定
- 随時改定:月額変更届の対象になる場合もある
- 賞与支給時:給与と役員賞与を明確に分けて処理が必要
たとえば、期中に給与部分が変更になった場合でも、報酬総額に変更がなければ随時改定には該当しません。詳細な判断が必要となるため、社会保険労務士等への相談も検討するとよいでしょう。
実務で起きやすいトラブルと防止策
ありがちなトラブルとしては、給与と報酬を分けずに処理してしまい、税務署や年金事務所から指摘を受けるケースです。役員報酬だけで処理していたつもりが、労務の実態が認められ給与性があると判断され、追徴課税や保険料の再計算を求められることもあります。
防止策としては、実態のある業務内容を文書化し、税務署・年金機構のいずれにも説明できるよう整理しておくことが重要です。兼務役員の報酬設計は、法人の社会保険や税務にも影響するため、計画的な運用が求められます。
まとめ:合算が基本だが、実態と書類整備がカギ
使用人兼務役員における健康保険・厚生年金の報酬算定では、給与と役員報酬を合算するのが原則です。ただし、その前提として「兼務の実態」と「明確な区分」が必要です。社内の報酬制度の見直しや就業規則の整備も含めて、実務的にトラブルが起きない設計と運用を心がけましょう。
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