なぜ高齢者の医療費に多くの国費が使われるのか?国民医療費の背景と制度の目的を正しく理解しよう

国民健康保険

日本の国民医療費において、65歳以上の高齢者が約60%を占めていることに疑問を持つ方もいるかもしれません。「どうせ死ぬ人に多額の税金を使うべきではない」という意見も一部で見られますが、それは医療制度の本質や社会的役割を正しく捉えていない可能性があります。本記事では、高齢者医療に国が費用をかける理由を、倫理・経済・制度の面から整理して解説します。

国民医療費とは何か?年齢別の支出構成を理解する

厚生労働省の最新統計(2022年度)によると、国民医療費は約45兆円。そのうち65歳以上の高齢者による医療費は約60.2%を占めています。これは高齢になるほど疾病が増え、医療機関への受診回数や治療内容が増加するため自然な傾向です。

また後期高齢者(75歳以上)の割合も全体の35%以上を占めており、特に慢性疾患やがん、心疾患など長期の医療管理が必要なケースが多くあります。

「死に近い人に金を使うな」は制度の目的に反する

公的医療保険制度は「誰もが健康で人間らしく生きる権利」を支える仕組みです。たとえ高齢であっても、その人が生きている限り治療を受ける権利があり、費用負担も社会全体で支えるのが原則です。

倫理的にも、「生産性」や「年齢」で命の価値を分けることは、社会の持続可能性と信頼を根本から揺るがします。全世代型社会保障は、若者も将来高齢者になるという前提で設計されています。

年金と医療費の同時受給は不公平なのか?

「年金を受けながら医療費も使っている」という声がありますが、これは制度設計上当然のことです。年金は現役時代の保険料の積立に基づき、高齢期の生活保障として支払われています。

また、高齢者の医療費は現役世代と異なり、自己負担は最大でも3割である反面、1割負担の人も多く、残りは現役世代や国庫が支えています。これは相互扶助・世代間扶養の考え方に基づくものです。

財政負担の増加は事実だが、高齢者ばかりが原因ではない

確かに国民医療費は年々増加していますが、その要因は高齢化だけでなく、医療技術の高度化、生活習慣病の増加、長寿化など複合的なものです。

実際には現役世代(0~64歳)でも40%近くの医療費を使っており、「高齢者だけが負担をかけている」という認識は偏りがあります。

今後の課題と社会全体の視点

日本は世界有数の長寿国であり、今後さらに医療費負担は増えると見込まれています。そのため政府も、高齢者の自己負担割合引き上げや、予防医療・在宅医療への転換など、医療制度の効率化を進めています。

一方で、「支える側」の若い世代も含め、誰もが公平に安心して医療を受けられるよう、財源の確保と制度の持続性のバランスが重要です。

まとめ

・65歳以上の医療費が多いのは寿命と病気の増加に伴う自然な構造

・医療制度はすべての人に生きる権利と安心を保証するものであり、高齢者を排除する考えは制度理念に反する

・年金と医療の同時受給は現役時代の保険料支払いに基づく正当な制度設計

・医療費増加は社会全体の課題であり、年齢層にかかわらず効率的な制度改革が必要

・持続可能な社会保障制度のためには、全世代が互いを支え合う仕組みが不可欠です

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