法人が契約者となり、従業員を被保険者とした医療保険契約(いわゆる福利厚生型保険)は、退職時に個人へ名義変更(現物支給)することが一般的です。しかし、契約内容や時期によっては、法人と個人の間に資金授受が必要になるケースもあるため、慎重な対応が求められます。
医療保険を現物支給で個人へ名義変更する仕組み
法人契約の保険を退職者に「現物支給」する場合、通常は保険契約者を法人から退職者個人へ名義変更します。この際、名義変更=契約の譲渡となるため、原則として契約の「評価額」(=解約返戻金相当額)を基準に以下の処理が必要となります。
- 法人:退職所得(現物支給)として損金処理
- 個人:退職所得として課税対象
つまり、個人が法人に現金を支払う必要は基本的にありません。ただし、後述するようなケースでは例外が生じます。
質問①:65歳退職時の名義変更と買取資金の有無
このケースでは、65歳時に払込が完了し、保険期間は終身、解約返戻金は10万円という内容です。
この契約を退職時に法人から個人へ名義変更する場合、退職金の一部として現物支給処理を行うことで、個人が法人に解約金10万円を支払う必要はありません。
法人は保険契約の解約返戻金を時価とみなし、その金額を退職所得として計上、個人はその金額相当の退職所得と見なされ、実際の現金の授受は発生しません。
質問②:退職せずに名義変更する場合の扱い
もし従業員が退職せずに法人から個人へ契約者を変更する場合(50歳など早期に払込が終了したケース)、その保険契約は給与課税の対象となります。
この場合:
- 法人:給与(現物給与)として費用計上
- 個人:課税対象として給与所得に計上され、源泉徴収の対象
このような状況では、名義変更時に相当額を個人が法人に「買取」という形で支払うことで、課税リスクを回避するという手法もあります。
契約名義変更時に注意すべき税務処理と評価額
契約変更の際は、解約返戻金相当額を基に税務処理を行います。金額が大きい場合や保険が複雑な場合は、以下の点に注意してください。
- 評価額=名義変更時点の解約返戻金(保険会社に確認可)
- 名義変更は「譲渡」または「現物給与」として処理される
- 課税の種類は「退職所得」または「給与所得」に分類される
適切な税務処理がされないと、税務署からの指摘や追徴課税の対象になる恐れがあります。
事前に確認・相談しておくべきこと
このような保険の名義変更や退職時の現物支給を行う際には、以下のような手続きを推奨します。
- 保険会社へ「契約内容照会」または「解約返戻金見込額」を確認
- 税理士・社労士・FPなど専門家へ相談
- 法人の会計処理を明確化する社内手順を用意
特に従業員が複数いる場合は、同様の取り扱いを統一しておくことがトラブル回避になります。
まとめ
法人が契約者の医療保険を退職時に個人へ名義変更する場合、原則として個人が法人に「買取資金」を支払う必要はありません。ただし、現役中の名義変更や退職金扱いにしない場合は、課税関係の整理が必要であり、評価額を基準に給与課税を避けるための「買取」スキームが有効になることもあります。
税務リスクを回避するためにも、必ず保険会社と税理士に事前確認を行ったうえで、正しい手続きで対応しましょう。
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